製造業DX 現場の抵抗をなくす3つの説得術|心理学で読み解く合意形成のコツ

目次

    製造業DXの現場対応:受け入れる側の気持ちから考える

    ここまで本編では、製造業DXがどんなものか、そしてどう進めていけばいいかということを、「ガバナンス・コード」や「ものづくり白書」の内容をベースに考えてきました。

    ここでは実際に、現場の抵抗をどのようにかわしながら、スモールスタートを切っていけるか、そしてアーリーウィンをいかにして手に入れていくことができるかについて、受け入れる現場の人たちの気持ちになって考えてみたいと思います。

    前回までの記事では、

    その1~5もぜひご覧下さい

    DXの目的の見つけ方、自社の現在地の把握、スモールスタートの始め方、
    そして推進体制の作り方について解説してきました。

    今回は番外編として、実際に現場と対話するときに使える、より具体的な3つの心理テクニックを紹介します。

    説得術1:相手を『加害者』にせず『被害者』として救い出す
    (現状維持バイアスへの対処)

    現場に「今のやり方は非効率(ダメ)だから、デジタルに変えましょう」と言うのはNGです。これを言われた現場は「自分たちのこれまでの努力や仕事のやり方を否定された(=自分が悪いと言われた)」と感じて、心を閉ざしてしまいます。

    避けるべきアプローチ(相手を責める)

    DX担当

    DX担当

    手書きの伝票は、転記ミスが起きるし無駄が多いので、
    タブレットに変えます

    劇的に効くアプローチ(仕組みを責めて、相手を被害者にする)

    DX担当

    DX担当

    毎日忙しいのに、あの『分かりにくいシステム』と『手書きの伝票』のせいで二重に入力するのって、本当に理不尽だし、時間もかかりますよね。
    〇〇さんの残業時間を減らすために、この『面倒くさい仕組み』を、デジタルで解決させてください

    ここがポイント!

    悪いのは「現場の人」ではなく「古い仕組み」です。

    現場の味方(救世主)として登場し、「あなたが悪いんじゃない、この仕組みがあなたを苦しめている被害者なんだ。それを一緒にやっつけよう」という構図を作ることで、敵対関係から一気に「共闘関係」へと変わります。

    説得術2:最初から『100点』を見せない|
    IKEA効果を使ったシステム開発

    DX担当者が夜遅くまで頑張って作った「完璧に見えるシステム」ほど、現場からは嫌われます。なぜなら、現場からすれば「上から押し付けられた、融通の利かないおもちゃ」に見えるからです。

    あえて『余白』を残して現場に渡す

    DX担当

    試作品を作ってみたんですが、

    • 現場のプロである〇〇さんから見てどうでしょうか?
    • 使いにくいところがあると思うんで、正直、まだ70点くらいの出来なんです。
    • 実際に触ってみて、『ここが押しにくい』『この項目は要らない』といったダメ出しをしてくれませんか

    ここがポイント!

    人間は、「自分が少しでも口を出して、開発に関わったもの」に対しては、不思議と愛着が湧く生き物です(心理学ではこれを「IKEA効果」と呼びます)

    「完璧なものを使わせる」のではなく、現場に「ダメ出し」をしてもらいながら一緒にシステムを育てていくプロセスを作ることで、現場は「使わされている側」から「一緒に作っている側(当事者)」へとシフトします。

    説得術3:キーマンに『裏メニュー』をプレゼントする|
    希少性の心理を使う

    「みんな平等に、一斉にスタートしましょう」は、一見正しく見えて全員の足を引っ張ります。現場を動かしたいなら、一本釣りした「現場のキーマン」に対して、特別扱い(裏メニュー)を用意します。

    キーマンだけの特別ルートを作る

    DX担当

    〇〇さん、この新しいタブレット、来月からみんなに配る予定なんです。

    • でも、現場を一番知っている〇〇さんに最初に使ってもらって、OKが出ない正直怖くて配れません
    • 来週から〇〇さんのラインだけで先行してテスト運用させてください。
    • 〇〇さんの意見を優先してシステムを修正しますから

    ここがポイント!

    人は「あなただけは特別です(希少性)」と言われると、協力したくなる心理があります。

    キーマンに「このシステムは自分が認めて、自分が使いやすさを保証したものだ」という自負を持ってもらう。
    そうすれば、いざ全体に導入する時に、他のメンバーが「これ使いにくいんだけど…」と不満を言っても、キーマンが「いや、慣れたらこっちの方が絶対に楽だから、お前も使ってみろよ」と、現場を説得してくれるようになります。

    まとめ:現場を動かすのは技術より『伝え方』

    • 敵は「現場の人」ではなく「古い仕組み」なんだよと、現場を被害者のポジションに置く。
    • 70点のものを持っていき、現場に「ダメ出し」をさせて当事者に仕立てる(IKEA効果)。
    • キーマンを特別扱いし、現場の中の「最大の味方(エヴァンジェリスト)」に育てる(希少性の心理)。

    DX推進者に必要なのは、プログラミング言語の知識よりも、こういった「人間関係の潤滑油」になるようなコミュニケーションの工夫です。

    ぜひ、温かいコーヒーを飲みながら、「うちの工場のあのキーマンには、どの伝え方が一番響くかな?」と想像してみてください。

    PCIソリューションズでは
    製造業DXに関するご相談を承っております。

    「何から手をつければいいかわからない」という段階の方も、
    自社の取り組み状況を一緒に整理するところからお手伝いします。
    お気軽にご相談ください。

    福田 剛

    PCIソリューションズ株式会社
    製造業DXデザイン室 室長

    略歴

    • 電子部品製造業の生産技術部にて、生産設備の選定・導
      入、専用機・検査機の電気制御設計などを担当
    • 計測・制御用PC部品の調達・販売・サポートなどを担当
    • 新規事業の企画・立上を担当