製造業DXの「目標」の決め方|自社の課題整理から全社の合意形成まで

目次

    自社が抱える「真の課題」とは?記事の狙い

    今回のブログテーマである、製造業DXの『目標』の決め方では、そもそも「DXで解決する課題とはなんなのか?」に焦点を当てて行きたいと思います。

    前回の記事「製造業DXとは?なぜ今必要なのか」では、

    What-is-DX-サムネイル画像
    その1「製造業DXとは?」もご覧下さい

    DXの定義と最終ゴールについて解説しました。

    今回はその一歩手前、「自社にとってのDXの目標」をどう見つけるかがテーマです。

    Web検索をすると、DXに関するたくさんの事例やソリューションが見つかります。しかし事例をなぞってみたり、ソリューション・パッケージをそのまま導入することはできません。当然ですが、それぞれの会社が抱える課題は千差万別ですから、世の中の成功事例を真似ても、その通りに行くはずがないことは、ご承知の通りです。

    今回は、自社が優先的に取り組むべきDX課題の設定方法について考えてみたいと思います。

    製造業DXが『空中分解』する3つの失敗パターン・
    なぜDXは失敗するのか

    よくある失敗のパターン

    経営陣

    とにかく我が社もAIやIoTを使ってDXを推進せよ!(丸投げ)

    DX担当

    まずは現場の見える化のために、高額なIoTセンサーを全ラインに入れます!(手段の目的化)

    現場

    今のままで困っていない。データを取られて監視されているようで気分が悪い(激しい抵抗)

    なぜこのようなボタンの掛け違いが起きるのでしょうか?

    原因は、「自社がDXで解決すべき最大の課題は何なのか」の共通認識を深めることなく、方法論に進んでしまうことにあります。

    DXは経営から現場まで全員を巻き込む「総力戦」です。
    だからこそ、関係者全員が「確かに、これを解決しないとウチの会社はやばいな」と腹落ちする理由が必要になります。

    【Step1】自社の真の課題を見つける「3つの視点」(経営・現場・市場)

    課題抽出のための「3つの視点」

    課題探索の第一歩は、関係者へのヒアリングです。DX担当者だけで抱え込むのではなく、「”経営陣”の危機感」「”現場”のイライラ」「”市場”のクレーム・要望」の3つを机の上に並べてみることです。

    経営陣の視点(経営課題)

    利益率の低下、人件費の高騰、新規顧客の伸び悩み。
    「5年後、10年後にこの会社はどうやって稼いでいるか?」の危機感。

    現場の視点(業務課題)

    ベテランしかできない業務(属人化)の不安。
    「いつもここで不良が出る」「この転記作業が面倒くさい」。

    顧客・市場の視点(外的課題)

    「納期を早くしてほしい」「小ロットで発注したい」。
    競合他社がデジタルを使った新しいサービスを始めている。

    自社の課題をAIに聴いても答えを教えてくれません。現場の「面倒くさい」や経営陣の「このままで大丈夫か」というリアルな感情をテーブルに並べて、見える化することがDXの第一歩です。

    【Step2】課題を「DXで解くべきテーマ」に翻訳する方法

    集まった大量の課題の中から、「これはデジタル(データ)を活用することで劇的に解決できるか?」というフィルターで絞り込みます。

    課題の「翻訳」の具体例

    すると、どうなるか…

    最新のAI故障予測センサーを全設備に導入

    • センサーが頻繁に警告を出し、現場は確認に追われてパニックに
    • 設定が難しすぎてセンサーを使いこなせず、高額な投資が無駄になった
    • 紙の点検記録をデータ化して傾向を掴む
    • Aさんの『異変を察知する基準(音や振動など)』をシンプルなセンサーで数値化してみる
    • 誰もが異常の兆候に気づける仕組みを作る

    「機械が壊れる」という課題に対し、「AIセンサーを入れる」のはツールの導入(手段の目的化)です。「なぜ気づけないのか」を深掘りすると、「ベテランのノウハウ(暗黙知)が共有されていないこと」や「データが紙に埋もれている」という真の課題が見えてきます。

    ここを狙い撃ちして、「ベテランの知恵をデジタルで再現し、全員で共有する」というテーマに翻訳すること。これが現場も納得し効果も出る「正しいDXの第一歩」になります。

    【Step3】経営から現場までを繋ぐDX目標設定フレームワーク(Why・What・How)

    課題が決まったら目標(ゴール)を設定します。ここでは、経済産業省の「DX推進指標」でも重視されている「経営戦略とIT(デジタル)の一体化」を可視化するフレームワークを使います。

    「なぜ?」と「どうやって?」を繋ぐ3階層の目標設定

    階層問い誰が納得するか目標の例
    経営目標 Why
    なぜやるのか
    経営層の納得 多品種少量生産へのシフトに対応し、営業利益率を5%向上させる
    業務目標 What
    何を変えるのか
    ミドル・現場の納得 仕様変更によるラインの段取り替え時間を50%短縮する
    デジタル目標 How
    デジタルを
    どう使うか
    DX担当・IT部門の納得 過去の段取りデータをAIでパターン化し、最適な生産順序を自動生成する

    ベース思想:経済産業省「デジタルガバナンス・コード3.0」

    目標を設定するときは、必ずこの3つの階層をセットで作ります。現場に「利益率を5%上げます」と言っても響きませんし、経営陣に「AIで生産順序を自動生成します」と言っても「それでいくら儲かるの?」と言われます。

    「経営目標を達成するために(Why)、この業務を変革し(What)、そのためにデジタルを使う(How)」という”ひとつのストーリー”としてつながることで関係者全員が納得できます。

    経営陣・現場と対話するための3つの質問【自社の課題発見ワーク】

    経営陣や現場のキーマンと対話するための3つの質問

    質問1:成り行きのシナリオ(危機感の共有)

    (世の中がどんどん変化する中、)もしわが社が今後3年間、今のまま一切デジタル化をしなかったら、どんな状態になると思いますか?

    質問2:理想の姿

    もし、現場のデータがすべてリアルタイムに見えるようになったら(現場の手書きのチェックシートや紙の記録がなくなったら)、あなたにとって、どんな良い変化が起きますか?

    質問3:一歩目の合意

    経営視点でも現場視点でも、一番『費用対効果が高く、みんながハッピーになる』小さな変化はどこですか?

    DXの目的はそれぞれの会社ごとに異なります。ぜひ、この3つの質問を社内(経営陣と現場)で投げかけてみてください。

    双方の意見が食い違ったらチャンスです。そのギャップを埋める作業が、御社だけの「真の課題」を見つけるプロセスそのものになります。

    出典・参考資料(公的資料):経済産業省「デジタルガバナンス・コード3.0」経済産業省「DX推進指標とそのガイダンス」(令和元年)

    「何から手をつければいいかわからない」という段階の方も、
    自社の取り組み状況を一緒に整理するところからお手伝いします。
    お気軽にご相談ください。

    福田 剛

    PCIソリューションズ株式会社
    製造業DXデザイン室 室長

    略歴

    • 電子部品製造業の生産技術部にて、生産設備の選定・導
      入、専用機・検査機の電気制御設計などを担当
    • 計測・制御用PC部品の調達・販売・サポートなどを担当
    • 新規事業の企画・立上を担当